美しい景色の中で、「楽しくすごす」をコンセプトに。
-「老人ホーム(ミナス州クルシランジア市)改修」のその後-
小さなまちの老人ホーム
クルシランジア市は、ミナスジェライス州の州都ベロオリゾンテ市から南西約80kmにあり、周囲を山々に囲まれた人口6千人ほどの小さなまちです。高速道路沿いにあるイタグアラ市からは、丘陵地帯の道を20分ほど進んで行かなければなりません。ですが、この丘陵地帯が非常に美しい景色で、どことなく熊本県の阿蘇の外輪山の丘陵地帯を思い起こさせます。
このような地理ですので、まちを出入りする人は限られており、ましてや日本人が来ることなどまずないでしょうから、我々が訪れた際には人々が物珍しそうに見ていました。
また、このまちは、これといった地場産業がなく、街中の商店、市役所のほかに、市の中で働けるというものがほとんどありません。
クルシランジア市 |
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ASSOPOC老人ホーム |
支援前の老人ホーム
さて、日本が支援した「クルシランジア貧民保護協会」(ASSOPOC)は、まちの入り口付近にあり、クルシランジア市及び隣接する2市(リオマンソ市、ピエダーデドスジェライス市)で唯一の非営利老人ホームです。15年以上前に、老朽化したいくつかの家屋で貧しいお年寄り達を世話していた当時の悲惨な状況に、現会長がいたたまれなくなって当時増築を施したとのことです。しかしながら、それでもその施設は、簡易なもので、天井もない瓦屋根だけで増築された建物であったため、数年前には大変老朽化が進み、ベッドルームには雨漏りがしたり、トイレは老朽化が進んでいたり、通路のスロープは穴だらけでお年寄りがつまずいたり車いすが引っかかったりしていたなど、大変不便で非衛生的な環境にありました。また、ベッドは煉瓦製で床に固定されていたため、お年寄りたちが床ずれを起こしやすい劣悪な環境にありました。
2011年に日本の草の根・人間の安全保障無償資金協力により、これらの施設の改築を致しました。
フォローアップで訪れて
2013年12月3日、フォローアップとしてふたたび施設を訪れました。出迎えてくださったのは、副会長のエライネ・マリア・コエリョ・コウチーニョさん他、施設の職員の皆さんです。
雨漏りのしていた屋根は修繕が施され、天井も設置されていました。また、各部屋にあった煉瓦製の固定式のベッドは撤去され、かわりに、ある家具メーカーから寄付されたベッドが設置されていました。通路は以前穴だらけだったものがきれいに補修されていました。また、老朽化が進んだトイレに加え、以前は個室シャワーが未整備だったため、国家衛生監督庁(ANVISA)から改善を求められていましたが、個室シャワーが各棟に設置され、また介護を受けながら浴びる必要がある方のための大型シャワールームも設置されました。さらに細かい点でいえば、スロープや手すりなども整備されていました。小さなことかもしれませんが、体の不自由なお年寄りや介護をする方々にとっては非常に大きなメリットであると思います。
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改修後の老人ホーム | 整備されたベッドルーム |
大型シャワールーム |
整備された通路 |
スロープと手すり |
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施設入り口に設置された記念プレート |
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精力的な支援募集活動と、日本の支援がもたらしたもの
さて、我々を驚かせたのは、改善された施設だけではありません。併設されているリハビリ施設では増築工事がされていました。また、敷地の入り口には、「ASSOPOC」の名前が書かれたトラックが置かれています。どうしたのか訊いてみると、寄付によるものだとのことです。コウチーニョ副会長は以前ミナス州の州都ベロオリゾンテ市で働いていたこともあって、ベロオリゾンテ市に精通しており、今でもたびたびベロオリゾンテ市に赴いて新たな支援を募っているとのことです。増築工事が施されているリハビリ施設、トラックは、一般の支援者から募った寄付によるものとのことです。
コウチーニョさん曰く、日本政府の支援以前はこのようなことがなかった、“日本政府が支援したところであるならば信頼できる”とのことで寄付が集まるようになった、とのことです。日本の支援が、直接的に老人ホームの改修を行っただに終わらず、間接的にこの団体への支援の輪を広げたという効果が生まれたようです。
もちろん、日本の支援だけでこのような効果が生まれているわけではありません。コウチーニョ副会長、弟のコウチーニョ会長の寄付集めの努力は支援前以上に精力的に行っているようです。例えば、上述したベロオリゾンテ市への行き来に加え、町の入り口には「ASSOPOC」の大きな看板が設置されています。町に来た人ならばまず目にするでしょう。実際、小さなまちということもあって、町の人はみんなASSPOCのことを知っているようです。訪問前に立ち寄った市内の飲食店で従業員の方にASSOPOCを知っているか尋ねたところ、「知っています。まちの住民ならばみんな知っていますよ。」とおっしゃっていました。
さらに、チラシを配ったり、口頭で伝えるだけでは、当施設の良さや活動内容を十分知ってもらうことはできない、として、なんと画像を集めたDVDも作成して必要に応じて配っているそうです。その精力的な寄付集めの活動に感服しました。
まちの入り口にある看板 |
ASSOPOCのトラック |
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コウチーニョ副会長 |
周知広報用のDVD |
美しい自然の中で、楽しく過ごす
ASSOPOC老人ホームは、隣接する道路との間に壁がなく、木と針金の仕切りがあるだけです。コウチーニョ副会長によれば、あえて外界と隔てることなく、開放感を感じさせるようにするため、意識的にそのようにしたとのことです。
訪問前に当館スタッフで打ち合わせをしていたときの話です。ブラジル人のスタッフの話によれば、施設改修前のような環境の悪い老人ホームは一般的によくあることであり、日本のような住みやすいものではないものの方が多く、どちらかというと事情により家族に見放されたお年寄りが入居するというネガティブなイメージがあるとのことでした。
ところが、この施設を見る限り全くそのようなイメージがありません。もちろん施設は当館の支援で改修しましたが、さきほどの壁のない敷地、周囲が美しい自然に囲まれている中でお年寄りたちが伸び伸び暮らしています。
話がそれますが、クルシランジアというところは本当に景色が美しいところでした。そのことを施設の従業員の方々に話しましたが、どことなく、「そうなのかな?」という顔をされていました。普段暮らしているとなかなかその土地の魅力に気づかず、むしろ田舎であると思っていらっしゃるのかもしれませんが、そのような足下にある良さというものは、暮らしている当人たちにはなかなか気づかないものです。
さて、この老人ホームでは、部屋に閉じこもりきりにさせないよう、寝たきりの方でも車いすに乗せて庭に出したり、行ける方々は外に行って乗馬やプールなどに連れて行ったりしているそうです。
コウチーニョさんは、「当施設は、ただお年寄りを保護しているだけではありません。お年寄りたちに楽しんで暮らしていただくことを心がけているのです。」とおっしゃっていました。その「楽しく過ごす」ための施設の改修に役立つことができて何よりでした。
誰でも入居を認めるわけではなく、家族とともに面接をして、例えば暴力的で施設の利用者に迷惑をかける人でないか、確かめてから入居を認めるそうです。これも、「楽しく過ごす」というコンセプトの表れではないかと感じました。